福岡高等裁判所 昭和49年(ラ)43号 決定 1974年6月01日
抗告人(仮処分債権者)
丸五株式会社
右代表者
石島正裕
抗告人
丸五コンクリート工業株式会社
右代表者
矢田定一
右両名代理人
山口定男
外一名
相手方(仮処分債務者)
全国金属労働組合福岡地方本部
丸五直方工場支部
右代表者
菅谷了
右代理人
中村経生
外一名
主文
一、原決定を取消す。
二、相手方は、抗告人らの直方市中泉犬田九七七番地所在の抗告人丸五コンクリート工業株式会社直方工場よりその製品を搬出することを、その所属組合員または第三者をして、製品または製品輸送の貨物自動車の進路に立塞がりまたは坐り込むなどの方法により、実力をもつて妨害させてはならない。
三、福岡地方裁判所執行官は、前項の命令の趣旨を公示するため、および前項の命令に違反する行為を排除するため、適当な措置を講ずることができる。
理由
(本件抗告の趣旨と理由)
一本件抗告の趣旨は、原決定を取消し、本件仮処分申請の趣旨どおりの裁判を求めるというのであり、その理由は、別紙即時抗告理由書記載のとおりである。
(疏明にかかる事実)
二一件記載によれば、次の各事実が疏明される。
(一) 抗告人丸五株式会社(以下抗告人丸五という。)は、木材の生産、販売、加工並びにコンクリートパイル、コンクリートポール、コンクリート二次製品の製造販売等を業とする会社である。
抗告人丸五コンクリート工業株式会社(以下航告人丸五コンクリートという。)は工場を直方市その他に置き、コンクリートパイル、コンクリートポール、その他セメント二次製品の製造及び販売を業とする会社であるが、抗告人丸五との契約に基き、その指示注文により直方工場においては専ら同社のために、コンクリートパイルを製造し、工場内で製品の脱型時点においてこの全量を同社に売却引渡すが、そのままこれを工場内において保管し、同社の指示に従つて工場より出荷することとなつている。
しかし抗告人両者は資本系統と経営者を共通にし、実質的には、抗告人丸五コンクリートは抗告人丸五の製造部門の役割を果しているものである。
(二) 相手方は、抗告人丸五コンクリートの直方工場に勤務する従業員九十数名中管理職、事務系統職員等十数名を除くその他の従業員(工員)約八十名で組織された労働組合である。
(三) 相手方は、昭和四九年三月一一日抗告人丸五コンクリートに対し、いわゆる春期闘争の一環として賃金引上げ等待遇改善を要求していたが、同月二〇日以降は七時間スト、半日スト、二四時間スト等の同盟罷業を次々と組合員全員或いは指名者によつて行つて労働争議中であり、同月一九日、四月二日、同月二三日と三回に亘り会社側と団体交渉を持つたが、妥結に到らず、その後全面ストに突入し、労使間の交渉は全く進展を見ぬまま今日に及んでいる。
(四) その間四月四日には、組合員全員による全面二四時間ストが行われたが、特に四月五日以降は指名或いは全面ストに加えいわゆる出荷全面拒否ピケット闘争が行なわれている。
(五) 抗告人丸五コンクリート直方工場の製品の出荷は、平常は同工場整理発送係の主任以下約十名の従業員によつて行なわれているが、同係従業員の同盟罷業により出荷も停止したため、抗告人らは、四月一二日、同月一七日と二回に亘り非組合員や抗告人丸五の職員等によつて出荷を試みたが、何れも前示出荷全面拒否ピケット闘争による組合員並びにこれを支援する他の労組員の実力による阻止に会い、その目的を果せなかつた。
相手方の組合員による抗告人らの製品出荷の阻止の状況は、直方工場正門附近において、抗告人ら会社側職員が、トレーラートラックに製品のコンクリートパイルを積み込み、委託運送業者(専属)の運転手がトラックを運転して工場外に出ようとするところを、そのトラックの進路前面に相手方組合員のほぼ全員約八十名と応援にかけつけた他の支援労組員らが幾重にも横列を組んで坐り込み或いは立ちふさがつて、約一時間位トラックの進路を多人数の人垣により封鎖し、その進行を不能にさせるのである。
(六) 而して工場正門附近には、日夜、交代で相手方組合員により出荷阻止のための監視が行われ、緊急の動員態勢も整つている様子が見受けられたため抗告人らは、不測の事故の発生の危険も考慮し、夜間の出荷を試みることも断念し、裁判所の仮処分による救済を求めることとした。
(七) そこで、抗告人らは、四月一七日、福岡地方裁判所直方支部に対し、出荷妨害禁止の仮処分を申請し(同庁昭和四九年(ヨ)第七号)、同月二二日、主文を「被申請人は、申請人らが直方市中泉犬田九七七番地所在の申請人丸五コンクリート工業株式会社直方工場よりその製品を搬出することを、口頭でこれをしないように説得する以外の方法で妨害してはならない。」とする仮処分決定を得たが、この決定は同日午後二時三〇分頃執行官により、抗告人丸五コンクリート直方工場内応接室において相手方へ送達された。これに引続き抗告人丸五福岡支店長八谷幸尾及び抗告人丸五コンクリート直方工場長神野繁美らは同応接室において相手方組合幹部に対し、裁判所の仮処分命令も出ていることでもあるし抗告人らとしても製品の出荷をするが、妨害をしないようにとの旨を申向けて相手方組合員らによる出荷阻止を解除するよう交渉をしたが、応諾を得られなかつた。
そこで抗告人らは、会社側職員や下請の専属運送業者の運転手により、同日午後五時三〇分頃よりコンクリートパイル製品を積んだトレーラートラックを同工場正門から外部へ進出させようとして第三回目の出荷を試みたところ、附近に待機していた相手方組合員のほぼ全員約八〇名位並びに他の支援労組員らが、トラックの前面に立塞がり、口々に絶対に出荷させない旨叫び、トラックの進路に人垣を築きこれを封鎖した。現場に居た抗告人ら代理人弁護士山口親男が、相手方組合員らに向つて三回位「仮処分決定がありますからトラックの前をあけて下さい。」と叫んだけれども、相手方組合員らは人垣による進路の封鎖を解かず、約一時間位両者の対峙が続き、トラックの進行は不能のままであり、次第に緊迫した騒然たる状況となつて来たため、抗告人らは不測の事故の発生を懸念し、遂に当日の製品の出荷を断念するのやむなきに至つた。
(八) 抗告人丸五コンクリートの直方工場の平常の製品出荷高は一日平均約二百トンでトレーラートラック十二、三台分位であるが、相手方組合員らの前示出荷阻止闘争により、昭和四九年四月四日以降五十日を超えても尚依然として抗告人らの工場よりの製品の出荷は全く不能となつており、既に約定の納期を徒過したものがあり、受註先にとつて抗告人らの製品コンクリートパイルは基礎工事に使用されるものであるため、工事の延伸を来たしている。
(当裁判所の判断)
三そこで前示疏明事実を前提として、本件仮処分申請につき被保全権利及び保全の必要性の有無について判断する。
(一) 抗告人らは、相手方組合員の行つた同盟罷業により直方工場の出荷部門についても組合員の労働力の提供を受けられないため、正常な出荷業務の運営が阻害されることは同盟罷業の当然の結果として受忍しなければならないものであるが、それ以上に組合側に対して同盟罷業中出荷業務を停止する義務を負うものでない。したがつて、抗告人らが管理職その他の非組合員や第三者等を動員して、顧客の要請に応ずるため出荷業務を行うことは、会社側として当然許されることといわねばならない。前示疏明事実の状況の下に抗告人らの出荷業務が相手方組合員らにより妨害されている本件においては、抗告人丸五コンクリートはその有する営業権、管理権に基づき、抗告人丸五は製品の所有権に基づき、相手方による製品出荷妨害の禁止、排除を求める権利を有することは明らかである。
(二) 他方、相手方は、同盟罷業に際し、抗告人丸五コンクリートの出荷業務につき、労働力の提供を拒否することによつて会社側に対し出荷業務の運営を困難ならしめることは勿論のこと、さらにいわゆるピケットにより会社側の行う出荷業務を防止しようとすることもできるけれども、この手段はあくまで言論による平和的説得ないし団結力の示威の限度内においてのみ是認されるものであり、それ以上に実力をもつて会社側の業務遂行についての自由意思を抑圧し或いは営業権、製品に対する所有権ないし管理権の行使を不能ならしめることは許されるものではない。
本件においては、前示疏明事実の状況のとおり、抗告人らが出荷業務を行おうとする都度、相手方組合員らは製品を積んだトラックの前面に多人数をもつて人垣を築いて立塞がり或いは坐り込むなどしてトラックの進路を封鎖遮断し、その進行を実力をもつて不能にさせ、結局抗告人らの自由意思を抑圧し、その出荷業務を五〇日以上に亘つて完全に阻止しているものであるから、相手方組合員らの本件出荷阻止行為は、明らかに前示言論による平和的説得ないし団結力の示威の限度を超えたものであつて、正常な争議権の範囲を逸脱したものといわなければならない。
前示のとおり、四月二二日には、福岡地方裁判所直方支部において相手方に対し出荷妨害の禁止を命ずる仮処分決定が発せられこれが送達されたが、相手方は事実上これに従わず尚も前示のような実力による出荷阻止を敢行したものでり、抗告人らが行おうとする出荷業務が相手方組合員らの不当な出荷阻止行動により長期間不能となつている現在においては、抗告人丸五コンクリートにおいて本件労働争議解決のための最善の努力を払つているとはいえない状況を考慮に入れても、本件仮処分の必要性は十分存在するものといわなければならない。
(三) よつて、本件仮処分申請を却下した原決定は不当であるから、これを取消し、抗告人らに金二百万円の保証をたてさせて本件仮処分申請を認容することとし、主文のとおり決定する。
(佐藤秀 諸江田鶴雄 森林稔)
抗告理由
一、同盟罷業は必然的に業務の正常な運営を阻害するものであるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してその持つ労働力を利用させないことにあるのであつて、これに対し、使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し、暴行脅迫をもつてこれを妨害するがごとき行為はもちろん不法に使用者の自由意志を抑圧し、或いはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、平和的説得の限度を超えたピケは違法であるとするのが、最高裁の一貫した立場である。すなわち、最近の最高裁判所についてみても最高裁昭和三三、五、二八大法廷(刑集一二巻八号一六九四頁)も同趣旨の従前判例を確認し「一〇〇余名の者と共に電車軌道上およびその附近に座り込み、立塞がり、或いはスクラムを組み、且つ労働歌を高唱するなどの挙に出て電車の運行を阻止し出炭業務を妨害するのは正当なものとは認められず、不法に威力を用いて会社の業務を妨害したものというのほかない」とする(同旨最高裁昭和三三、六、二〇判決刑集一二巻一〇号二二五〇頁)。
また最判昭三三、一二、二五判決(刑集一二巻一六号三五五五頁)は「本件ピケッテイングは原判示によれば説得というのは表面の理由だけでその内容はスクラムを組んで非組合員の現場立入を拒否しようとするにあることが明白であるのに、平和的説得ないし団結の示威を建前とするピケッテイングに附随するスクラムであつて正当であると判示したのは理由にくいちがいがあるかまたは重大な事実誤認の疑がある」とし前記最高裁の一貫した立場をいよいよ固め、いやしくもスクラムを組んで阻止することは認めないとの方向を示している(最高裁判例解説昭和三三年度刑事篇七五二頁以下)。
さらに最判昭三五、五、二六判決(刑集一四巻七号八六六頁)は「説得は平和的方法によることを要しあくまで説得に応じない組合員に対し終局的に通行を阻止することはひつきよう暴力の行使と解すべきであり出勤せんとする職員をスクラムを組み体当りをもつて押返しその通行を阻止したピケット隊員の行動はピケットの適法性の限界を超え威力による業務妨害罪を構成するとした」原判決をそのまま是認しておる。この最高裁の一貫した立場は下級審においても確認されており福岡高裁昭四五、一〇、八判決(労民集二一巻五号一三二六頁)はあくまでも管理職による出荷を阻止するとの前提のもとに多数の威力を背景にして管理職の自由意志を制圧し、もつて当初の目的を貫徹した行為は平和的説得の範囲を超えた違法のものといわざるを得ないとし、札幌高裁昭四八、三、一九判決(判例時報七一三号一二九頁)は、分会員約七〇名がそれぞれ列をなしてたちならび或いは坐り込み船積作業の場所を占拠する形でピケを張りこれが解かれない限り荷役作業は不可能な状態としたのについて直接作業員の身体に対するものでなくてもまさに有形力の行使であり、直接かつ具体的に仕事を妨げたもので右ピケは平和的説得の限度を逸脱し、不法な威力或いは有形力の行使によつて業務を妨害したもので違法というべきであるとしておる。(同旨東京高裁昭四七、一〇、二〇判決判例時報六八九号五一頁)。
二、本件についていえば昭和四九年四月一二日及び四月一七日丸五株式会社がその所有トラックで製品の出荷をなさんとしたところ、組合員八一名余が直ちに製品を積んだトラックの前に八列位で各列約一〇人が横に並んで座りこんで動かずトラックの前進を阻止し会社側職員の説得にも頑として応じず強いて出荷すればいかなる事態が発生するかもしれない危険があり、出荷不能となつたので抗告人らの申請により「相手方組合は丸五株式会社、丸五コンクリート工業株式会社が直方工場よりその製品を搬出することを口頭でこれをしないように説得する以外の方法で妨害してはならない」との福岡地方裁判所直方支部昭和四九年(ヨ)第七号出荷妨害禁止仮処分命令が発せられた。そこで同日相手方組合に仮処分命令が送達されてから、丸五コンクリート工業株式会社直方工場応接間に於て丸五株式会社福岡支店長八谷幸尾及び丸五コンクリート工業株式会社直方工場長神野繁美らは組合幹部らに対し右の仮処分命令も出ており製品の出荷をするので妨害しないよう説得したが組合幹部は組合員および組合の応援にかけつけた第三者らと共に口々に「出荷できるものならしてみろ」「絶対に出荷はさせん」と怒号して応じようとせず、更に長時間説得を続けるも頑として聞き入れようとしなかつたものであり、抗告人らとしては既に長期にわたつて出荷をしておらず納期が遅れて得意先にも損害を及ぼしているので同日午後五時半頃製品を積んだトラックを同工場正門から出そうとしたところたちまち約八〇名位の組合員ならびにその応援に来た第三者らがトラックの前に立ちはだかり口々に「出せるものなら出してみろ。」「俺達をひいても前進できるか」等と怒号し、はては丸五株式会社の支店長に殴りかかろうとする者も出る始末であり、「仮処分決定が出ておるのでトラックの前をあけて下さい。」と説得しても「何を云うか」と出荷妨害を止めず次第に殺気だち身体に危害を加えられかねない状況をかもし、そのためついに抗告人らは出荷を断念せざるを得ず到々出荷はできなかつたものである。
なお、製品は丸五コンクリートと丸五株式会社の売買取引基本契約書により、脱型と同時に丸五株式会社の所有となつたものでその製品の出荷は丸五コンクリートとは関係のない丸五株式会社の業務であることを看過してはならない。
三、原判決は争議行為としての出荷阻止はある程度の実力の行使は許されるものと解すべきであるというが、最高裁の一貫した前記見解からすれば許されないものといわざるを得ない。
あるいは「憲法に保障する労働者の争議権はストライキ等によつて労働者の要求貫徹を可能ならしめる権利であり、その要求貫徹の可能ならしめるためには争議中の使用者側の操業継続を阻止しうる手段が労働者に許されねばならない。さもなければ業務の正常な運営を阻害するという争議行為の本質を否認することになるからである。その意味において、争議権は争議中の使用者側の操業を労働組合の力によつて事実上阻止できる権利という内容をもつていると考えられるであろう」という議論がある。原決定もその流れに属するごとくであるが争議行為が使用者に業務上の支障ないし損害を与える結果を伴うものであるということは必ずしも正当な争議行為のみの特色ではなく違法な争議行為についても同様なことがいえる。いいかえると、使用者の業務の支障ないし損害を与える結果を伴うということは、争議行為をそれ以外の行為から区別する特色とはなりえても正当な争議行為であることを根拠づけ、限界づける要素ではありえない。したがつてそのような結果を伴う行為はその手段内容のいかんをとわず正当な争議行為として許されるべきであるとか使用者の業務を阻止妨害することが正当な争議行為として許されるべきであるなどというのは全然当たらないところである。
前記議論は「争議行為が会社業務の運営に支障を与えるものである」という命題より出発し、この命題における「争議行為」なるものがいわゆる「争議権」の内容たる「正当な争議行為」とは同義でないことを看過し、これを同義に解して業務に支障を与えることがあたかも「正当な争議行為」を限界づけるための要件であるかのように考え、だから使用者側の操業を実力で阻止することも「争議権」の内容であると結論するのであり、一貫性を欠くことは明らかである。のみならず、そこには争議手段の意味内容という観点における評価についてはなんら考慮も払われていない。この論法をもつてすれば会社に業務妨害の圧力をかけることはすべて許される、ということになるであろう。憲法において保障せんとする争議行為は正当なものに限られ、いわゆる争議権とよばれるものは、正当な争議行為をなしうることを前提として用いられる言葉であり、違法な争議行為はその前提より除外されていることに注意する必要がある。
四、原決定は「本件出荷阻止により製品の納期が遅れ、ために販売先等からその工事に支障をきたしているとの苦情がでるなど債権者らの信用が失墜しつつあることが疎明されるがこれら債権者らの有形無形の損害の発生は争議行為の性格から当然のことであり(製造部門の同盟罷業による製造停止による場合も同じ事態が生じうる)、適法な争議行為によつて事実上製品出荷が阻止される場合には抗告人らはこれを受忍せざるをえないものと解される。他に即時出荷を必要とする特段の事情(例えば、製品を放置することによる保安上の危険、腐敗等による製品の無価値化あるいは出荷遅延による抗告人らの倒産のおそれ等)について疎明はなく、この必要度は必ずしも強いものではない。」という。
しかしながら、正当な争議行為の場合はともかくとして本件の如く違法な出荷妨害行為を抗告人らが受忍すべきであるとする法理はないはずである。
五、原決定は相手方組合員らの出荷阻止の態様について「組合員らは製品を出荷しようとする抗告人ら側の貨物自動車を取り囲みあるいはその進路に立塞がるなどしてその出荷を阻止していることが疎明せられるところ、争議行為としての出荷阻止にある程度の実力の行使が許されることは前示のとおりであり、本件の阻止の態様中にはやや行き過ぎの点があることも窺われるが、暴力の行使や脅迫等明白な違法手段により出荷阻止がなされまたはなされるおそれがあるとは疎明されず、いまだ公権力をもつてこれを排除すべき緊急の必要性はない」という。
しかしながら先に述べた相手方組合の出荷妨害行為が平和的説得の範囲を超えた違法な威力或いは有形力の実力行使であることはいうまでもない。
原決定はある程度の実力行使というが、相手方組合の実力行使は前記判例の立場よりして全く正当として許されるべき程度のものとはとうてい考えられないものである。
原決定のいうところに従えば抗告人らが倒産するにいたるまで相手方組合の前記の如き原決定も行きすぎたと認める実力行使を手をこまぬいて甘受せざるを得ないということになる。また原決定のいうように暴力の行使や脅迫等の明白な違法手段による出荷阻止ということになれば抗告人らにおいて組合員らにより殴打されなければならない羽目におちいらざるを得ないということになろう。
六、原決定は他に即時出荷を必要とする特段の事情を抗告人らにおいて主張立証しない以上、相手方組合の実力行使を禁止する必要性が生じないとするがそのいわんとするところは相手方組合の実力行使の正当性であることは決定書自体で明らかであるところ、右原決定の見解は順序を誤つており、むしろ本件においては、相手方組合が平和的説得の範囲を超え実力またはこれに準ずる方法を用いて出荷を阻止することを相当ならしめる特段の事情が問題とされるべきであつて、その相手方組合の特段の事情というものは本件において全く存しないのである。
七、原決定は「本件仮処分の必要性の存否は抗告人らの製品の出荷を即時必要とする事情、本件労働紛争の経緯特に紛争解決のための丸五コンクリートの努力及び相手方組合員らの出荷阻止の手段、態様をそれぞれ検討し、その相関関係によつて決せられるべきである」というが、結局は相手方組合の出荷妨害の正当性の判断に帰着するものであるが、原決定のように「争議の正当性の限界は場合によつて異なる。争議行為は労使の相関関係の推移により動的であるからその正当性の限界を画一に律することはできぬ」とする議論をなすものがある。しかし、これは法の本質的な機能を無視した論というべきであり、洗の解釈の問題を逸脱したものといわざるをえない。法の重要な機能はその安定的機能にある。ある行為が違法か否かはまさに論理的に画一基準が法解釈によつて導かれうるのであり、それが相手方における諸事情によつて異なりうるというようなことはありえないのである。動的推移における相手方の諸事情は正当防衛または緊急避難の要件を具備せざる限り自らの違法行為を正当化するだけのものになりえないし、また自らの違法行違に対する責任を免れしめるだけのものたりえない。相手方が違法行為をしたから自らの違法行為が正当化されるという理論は正当防衛理論以外にはなりたちえないのであつて、労使関係といえどもその例外でない。また違法行為につきその責任の阻却されるのは緊急避難の要件のある場合に限られることもいうをまたないところである。さらには、前述のごとき見解をもつてすれば争議行為の実効がなくなるから、その限度をある程度超える行為も正当と認められるべきである、という議論をなすものがあるが、こうなるともはや法的判断の問題ではなく相手に思うとおりの圧力がかけられるまではある程度のことはやつてよいのだということにほかならず、もはや法理論というに値しない。
ピケの適法性の限界については田辺公二集団行動としての同盟罷業の権利(田辺公二論文集第二巻一二三頁)を参照されたい。
八、原決定は「労働紛争はは本来当事者の自主的交渉による解決に委ねられるべく、特に争議中における国家機関の介入は時として当事者対等の立場による交渉を不能ならしめる結果となることもありえ、極力差し控えるべきものと考える。」という。しかしながら、違法な妨害行為がまさに行われ、行われんとしているのに法的救済が放置されてよいはずがない。
抗告人らは原決定も認めるとおり、労働組合の行う出荷部分の同盟罷業により組合員の労働力が引き上げられたからといつて出荷部門の業務を停止する義務を負うものではないことはいうまでもなく、本件における被保全権は抗告人らの経営権、営業権あるいは製品の所有権に基づき会社の出荷業務が違法なピケによつて妨害されたとしてその排除を求めるものであり、仮処分の必要性は本案訴訟での勝訴判決における被保全権利の実現ではおそきに失する危険として現れるものであるから、かかる危険性が存在するかどうかが本件仮処分許否の標準となるはずである。
本件被保全権利の性質ならびに本件出荷妨害の状況から見れば本案訴訟の解決まで拱手することが被保全権利の実現を無意味のものとすることはいうまでもない。
従つて本件仮処分の許否についてはむしろ被保全権利の存在が肯定されるかどうかが決定的意味をもち、これが認容されたならば保全の必要性はさして問題とはならないというべきである。
原決定は「出荷妨害により抗告人らの蒙る損害は争議による普通の損害である」というが、この非難は間違つておりピケが違法であつて被保全権利(出荷業務の妨害排除請求権)が認められた以上は本案まで拱手することがこの被保全権利の実現を無意味する場合にはその損害が異常でなくとも仮処分を許すべきである。裁判所が労働争議に干渉するのはできるだけ消極的なのが望ましいと原決定はいうが裁判所が一旦必要としてこれに関与し前期仮処分を発した以上、そのような消極的中途半端な態度は許されるべきではなく、最終段階まで行き得る完全な仮処分を出し最後まで面倒を見るのが裁判所としてとるべき態度ではなかろうか。
九、原決定は「本件仮処分申請に先立つてなされた出荷妨害禁止仮処分(当庁昭和四九年(ヨ)第七号)はいわゆる債務者の任意の履行を期待する仮処分であつて、これに対し本件仮処分申請の趣旨は執行官による出荷妨害の排除を求めるもので、この仮処分が認容されると場合によつては警察力の介入も予想されるものであるから、その必要性について先の仮処分と異なる判断を要することはいうまでもない」という。なるほど本件第一次仮処分は任意の履行を期待するものではあるが、出荷業務を妨害してはならないとの不作意を命じたものに外ならない。
かくて不作為の受忍業務を負う債務者が仮処分命令に違反しみずからまたは第三者をして債権者の出荷業務に対し人力で抵抗する場合、本来裁判所は債権者の申立により民法第七三三条民法第四一四条第三項の将来のための適当の処分として執行更に立会(債権者の行為に対し債務者が抵抗するときはそれを実力で排除することも含む)を命ずる決定をなしうるものである。
さらに債権者は任意の履行を期待した不作為を命ずる第一次仮処分命令に債務者が違反した場合には執行可能な第二次仮処分命令を申立てることができるはずのものである。
そのいずれによるかについては当事者が執行命令で求めてくればそれにそう授権決定をなし、第二次の仮処分で求めてくればそれによつてもよいと弾力的に解するのが相当でる。(田尾桃二不作為を命ずる仮処分における公示および抵当の排除、村松記念論文集仮処分の研究下巻九七頁、菊地博不作為を命ずる仮処分における代替執行と間接強制同上書一一六頁)。
いずれにしても本件第一次仮処分命令に違反する行為について強制力をもつて、これが排除さるべきは当然のことであるが本件第二次仮処分申請は第一次仮処分より妨害行為の態様を細かくして執行官に解釈の疑義を残さないようにしたものでありその執行についての困難な問題は生じない。
いやしくも裁判所の仮処分命令が発せられた以上これを無視することが許されてよいはずもなく、原決定については抗告人らとしては法治国の下にありながら、いずこに救済を求めるべきか理解に苦しむものである。
一〇、原決定は本件紛争解決のための交渉の経緯について「本件争議が始まつて以来約一ケ月半の間に三度の団体交渉がなされているが、本件仮処分申請がなされた日(四月二五日)の直前の四月二三日に開かれた団体交渉には代表取締役は出席せず一定の権限を委任された他の取締役が交渉に当つたものであるが団体交渉はいわば労使鍔迫合の場であり本件争議のように労使の主張に大きな隔たりがあるような場合には最高責任者の出席がなければ交渉の実をあげることは通常できないものと思われ、丸五コンクリートが紛争解決のため最善の努力を尽しているとは必ずしも認めがたい。」という。
しかしながら、最高責任者の出席がないから丸五コンクリートが紛争解決のため最善の努力を尽していないとは独断偏見も甚しい。
抗告人らの関連会社においては、他の組合よりもはるかに高額の実質回答を相手方組合に対してなしており、団交も誠意をもつて重ねて来ておることは疎明資料の示すとおりである。
一一、以上述べたところからして速かに原決定は取消さるべく、本件仮処分申請は認容さるべきである。
【参考 原決定】
債権者
丸五株式会社
右代表者
石島正裕
債権者
丸五コンクリート工業株式会社
右代表者
矢田定一
右両名代理人
山口定男
外一名
債務者
全国金属労働組合福岡地方本部
丸五直方工場支部
右代表者
菅谷了
右代理人
中村経生
主文
本件仮処分申請を却下する。
理由
(申請の趣旨及び理由)
別紙仮処分申請書(写し)中、申請の趣旨、申請の理由に各記載のとおり。
(当裁判所の判断)
一本件で取調べた疎明資料によると、次の事実が疎明せられる。
1 債権者丸五株式会社(以下債権者丸五と略称する)はコンクリート杭の製造販売、木材の加工販売等を業とする会社であり、債権者丸五コンクリート工業株式会社(以下債権者丸五コンクリートと略称する)はコンクリート杭等の製造販売を業とする会社であるが、もつぱら債権者丸五の注文、指令にもとずき製品を製造し同社にこれを引渡している実質的には債権者丸五の製造部門を担当しているものであること、債務者は債権者丸五コンクリート直方工場に勤務する従業員をもつて組織されている労働組合である。
2 債務者は昭和四九年三月一一日債権者丸五コンクリーに対し、いわゆる春闘の一環として賃金引上げ、待遇改善等の要求をなし、労働争議に入り、同年三月一九日に第一回団体交渉、同年四月二日に第二回団体交渉、同月二三日に第三回団体交渉(但し、会社側代表取締役は出席しない)がもたれたがいずれも妥結するに到らなかつた。
3 その間債務者は同年三月二〇日に七時間ストライキ、同月二六日半日スト、同年四月四日二四時間スト、同月五日から指名スト等の同盟罷業とともに同月四日以降製品の出荷を阻止する争議行為を行つている。
4 債権者丸五コンクリートの製品の出荷は従来同社整理発送係によつて行われているものであるが、同係従業員の同盟罷業のため、同会社は非組合員や債権者丸五の従業員をして製品の出荷を試みたが、債務者組合員等のピケッティングによりその出荷は阻止され、同月四日以降製品の出荷は全くなされていない。
二以上の疎明事実を前提として、本件申請の当否を判断する。
1 債権者らは労働組合の行う出荷部分の同盟罷業により組合員の労働力が引き上げられたからといつて、出荷部門の業務を停止する義務を負うものでないことはいうまでもなく、非組合員やその他第三者によつて行わせる出荷業務が妨害されるおそれがあるときは、債権者らの経営権、営業権あるいは製品の所有権に基づく物上請求権を被保全権利としてその妨害排除を求めうることは明らかであり、本件疎明資料によれば、債権者らが右被保全権利を有することは疎明せられる。
2 そこで、仮処分の必要性についてであるが、本件出荷阻止が労働争議の一環としてなされていることは前認定のとおりであり、仮処分による出荷阻止排除の必要性の有無については慎重な検討を要する。すなわち、債務者労働組合は争議権の行使として同盟罷業による労働力の引き上げのほかに、ピケッティング等の方法によつて代替労働力の就業を阻止し、あるいはこれら労働力による製品出荷を阻止することを適法になしうるものというべく、特に出荷部門については債権者ら会社側にとつて代替労働力の確保が容易であること、出荷という行為が一回的即時的なものであるため会社側は直ちにその目的を達することができ、これが自由に行われれば出荷部門の同盟罷業は無意味なものとなること等を考え合わせると、争議行為としての出荷阻止は暴力の行使や脅迫等違法な手段によるものは論外として、ある程度の実力の行使は許されるものと解すべきであり、また、労働紛争は本来当事者の自主的交渉による解決に委ねられるべく、特に争議中における国家機関の介入は時として当事者対等の立場による交渉を不能ならしめる結果となることもありえ、極力差し控えるべきものと考える。本件仮処分申請に先立つてなされた出荷妨害禁止仮処分(当庁昭和四九年(ヨ)第七号)はいわゆる債務者の任意の履行を期待する仮処分であつて、これに対し本件仮処分申請の趣旨は執行官による出荷妨害の排除を求めるもので、この仮処分が認容されると、場合によつては警察力の介入も予想されるものであるから、その必要性について先の仮処分と異なる判断を要することはいうまでもない。
3 本件仮処分の必要性の存否は、債権者らの製品の出荷を即時必要とする事情、本件労働紛争の経緯特に紛争解決のための債権者丸五コンクリートの努力及び債務者組合員らの出荷阻止の手段、態様をそれぞれ検討し、その相関関係によつて決せられるべきである。
まず、即時出荷の必要度の点について案ずるに、疎明資料によると、本件出荷阻止により製品の納期が遅れ、ために販売先等からその工事に支障をきたしているとの苦情がでるなど債権者らの信用が失墜しつつあることが疎明されるが、これら債権者らの有形無形の損害の発生は争議行為の性格から当然のことであり(製造部門の同盟罷業による製造停止による場合も同じ事態が生じうる)、適法な争議行為によつて事実上製品出荷が阻止される場合には債権者らはこれを受忍せざるをえないものと解される。他に即時出荷を必要とする特段の事情(例えば、製品を放置することによる保安上の危険、腐敗等による製品の無価値化あるいは出荷遅延による債権者らの倒産のおそれ等)について疎明はなく、この必要度は必ずしも強いものではない。
次に本件紛争解決のための交渉の経緯について案ずるに、前認定のように、本件争議が始まつて以来約一ケ月半の間に三度の団体交渉がなされているが、本件仮処分申請がなされた日(四月二五日)の直前の四月二三日に開かれた団体交渉には代表取締役は出席せず、一定の権限を委任された他の取締役が交渉に当つたものであるが、団体交渉はいわば労使鍔迫合の場であり、本件争議のように労使の主張に大きな隔たりがあるような場合には最高責任者の出席がなければ交渉の実をあげることは通常できないものと思われ、債権者丸五コンクリートが紛争解決のため最善の努力を尽しているとは必ずしも認めがたい。
次に、債務者組合員らの出荷阻止の態様についてみるに、疎明資料によれば、組合員らは製品を出荷しようとする債権者ら側の貨物自動車を取り囲みあるいはその進路に立塞がるなどしてその出荷を阻止していることが疎明せられるところ、争議行為としての出荷阻止にある程度の実力の行使が許されることは前示のとおりであり本件の阻止の態様中にはやや行き過ぎの点があることも窺われるが、暴力の行使や脅迫等明白な違法手段による出荷阻止がなされまたはなされるおそれがあるとは疎明されず、いまだ公権力をもつてこれを排除すべき緊急の必要性はない。
三以上のとおり、債権者らの即時出荷の必要度は必ずしも強いものとはいえず、その主張する必要性の大部分は争議に通常伴う損害であつて受忍の範囲内のものと認められ、第二の紛争の自主解決の努力についても十分とはいえず、第三の債務者組合員らの出荷阻止の態様についても違法性の強い悪質なものとはいえない。これらを綜合すると、結局本件仮処分申請はその必要性を欠くといわざるをえず、不適法として却下されるべきである。
よつて、主文のとおり決定する。
(河村直樹)